彦島を熱く語る!!一覧に戻る
投稿番号:35047 投稿日:1999年06月02日 12時44分20秒
お名前:服部 明子
 

服部明子の日本オカルト紀行完結編その2


コメントの種類:その他


今回は男の言い分を書き込みます。
男がどのように女を愛するのか。


服部 明子さんからのコメント(1999年06月02日 12時45分50秒)
           パスワード

今日は私の誕生日でもありますので良い記念になりました。

服部 明子さんからのコメント(1999年06月02日 12時57分25秒)
 

本人によりコメントは削除されました。 1999年06月02日 15時04分28秒

服部 明子さんからのコメント(1999年06月02日 15時02分41秒)
           パスワード

伊賀物語:愛は時を超えて その2

どれぐらい気を失っていたのだろう?真っ暗闇の世界で、誰かが俺の名を何度
も何度も呼ぶ気がして、やっと俺はなんとか意識を取り戻した。誰が呼んでい
たのだろう?絶望的な声音で女が呼んでいた気がする。女?あぁ、そうだ、女
だ。

身を起こそうにも全身に矢を受け、俺は痛みで再び気を失いそうだ。規則的に
届く波の打ち寄せる音が快く耳に響き、こうして死んで行く自分を心の中で見
つめていた。その一方で「未だ死んではならぬ。未だ死ぬわけにはいかぬ」と
も励ましていた。

俺は長門国の西外れの島に一門と共に篭もり、決戦の朝を迎えた。知盛の殿が
幼いお上の手を引き、御座船にお乗せするのを見守っていた。「今日はお味方
の大勝利の日なれば、お上もとくと御覧うずれ。なぁに、怖いことなどござい
ませぬ。お上には武士の血が流れておいでなのだから」と知盛の殿がお上をな
だめて船にお乗せした。

戦さの終わりに俺は不覚にも矢を受け、船から落ちた所までは記憶がある。ど
のように浜辺に着いたのかは分からぬ。矢傷の痛みを感じるということは、未
だ地獄には落ちてはおらぬ、ということらしい。

一体、戦さの結末は如何相成ったのか?俺の耳には、ただ、寄せては返す規則
正しい波の音が聞こえるだけで、身体が闇の底に沈んでいるのか、何も見えは
せぬ。

俺の馬はどうしているのであろう?どこへ行くにも俺を乗せてくれた可愛い馬
なのに、こたびの戦さは船戦さ故、島に残してはきたが、あるじに捨てられた
と恨んでいなないているのであろうか?それとも敵に奪われ、鞭打たれている
のであろうか?かわいそうなことをした。無事に何処かへ逃げていれば良いの
だが。俺を捜してあなたこなたへとさ迷い、いなないているのであろうかと思
うといじらしくて。。。不甲斐無いあるじを許して欲しい。

オヤジに言われて亡き叔父上の家に養子に入り、新しく主人と仰ぐ宗盛の殿に
拝謁した。見るからに人の良い、この世の裏を読もうとはなさらない鷹揚なお
方であった。平家の世が続くのであったなら、王者の風格を備えた良きお主ど
のであったに。

あぁ、そうだ、俺が矢を受けたのは海に突き落とされた宗盛の殿を敵が捕らえ
ようとしたのをさえぎろうと、従兄の景経どのと共に敵と切り結んでいた時で
あった。従兄どのは如何したのであろう?俺より先に海に落ちるところを聞い
た気がするが。

従兄の景経どのは宗盛の殿とは乳兄弟でもあれば性格も良く似て人の醜い面を
見ようとはせぬお人であった。

しかし、しかしだ。。。この「しかし」が問題であった。京の都しか知らぬ育
ちの従兄どのは優雅に貴族化し、俺がどのように東国の奴等の性根を説いても
まさか、まさかと笑って信じようとはせぬかった。

「武士とは正々堂々戦うもの。そのようなけだものじみた振舞いをするものは
武士とは言わぬ。いくら平家に怨みがござろうとも、我が家と同じ藤原秀郷公
の誇り高き子孫であれば。。。いや、藤原氏出身でなくとも源義家どののご子
孫であれば。。。はたまた坂東平氏であれば、武士とは美しく戦うものである
筈だ」

「奴等は武士の誇りなど、生まれ出た時、おふくろさまの腹の中に置き忘れて
来た恥知らずの者どもですぞ」。俺はオヤジと喧嘩して遠縁の伊豆の狩野に出
奔していた頃見聞きした、東国の野蛮な風土を口角泡を飛ばして披露したのだ
が、更には、何度も平家が源氏方に思わぬ不覚を取ったというに、この従兄ど
のは「さような事は。。。」と、まだ武士としてのあるべき美を信じていた。

平家自体がなんという甘さだっただろう。打ち続く戦さに省り見ることもなく
遠征する度に着飾った総大将以下の美しさに都の市人同様一族も目を見張り、
神仏の御加護を噂し、平家の勝利を疑いもせなんだ。

平家に比べ、木曾の食い詰め狼どもは泥水をすすり木の皮をかじる毎日の暮ら
しから少しでも脱け出られるようにと参戦したわけで、平家方雑兵の腰兵糧を
目当てに突進して来る餓えた百姓および木樵の集団であった。腹を満たす為に
はどのような汚ない手も辞さぬ奴等であった。

藤戸の戦さでも奴等の戦いの汚なさは同類であった。敵の大将、佐々木盛綱は
浅瀬を教えてくれた土地の百姓を、礼をつかわす、と呼び出して口封じに命を
奪ったという。平家の我等には考えもつかぬ振舞いだ。相手を武士と重んじて
戦さを交える平家が見苦しきさまをお味方にも恥とするのとは大違いだ。

命をやり取りする戦さにさえ美を追い求める平家には既に戦う前から勝負は決
まっていたという訳だ。

ならば、俺は一体何の為に戦い、傷つき、今こうして死を迎えようとしている
のだ?

子供の頃、そうだ、う〜んと昔の事だ。俺が未だ3才ぐらいの時の事だ。俺は
伊勢の久居のおふくろさまの実家で育てられていた。

おふくろさまの妹が子を産むとかで伊賀から実家に戻って来た。大きな腹を抱
えての峠越えはさぞや困難を極めたことであろう。やがて月満ちて叔母上は女
の子を産んだ。「女のややさんですよ」。手伝いの女が俺に言った。俺は近所
の子供達と遊んでいたのを止めて叔母上の産屋へ駆けて行った。

ぼろにくるまれた小さな物体だった。生きているのか?と俺は問うた。勿論で
ございますよ、と女が答えた。

俺は不思議な物を見るような気持ちで赤子の顔を覗き込んだ。あぁ、なんてい
たいけなのだ。この小さな生き物は目も開けず、言葉も発せず、動きも出来ず、
ただ息だけをついてぼろにくるまれていた。

「でも、どうしてこんなぼろにくるんでいるの?こんな可愛いややさんを」
「女のややさんですからね。それに坊ちゃんには分からないでしょうが、お顔
がね」
手伝いの女がそう言って笑った。

赤ん坊は自分が噂になっているのが分かっているのか、笑ったように俺には思
えた。

「ほら、笑ったよ。すっごく可愛いよ」
「愛嬌だけが取り柄の女のややさんではねぇ。。。」
俺は女を殴っていた。

昔の話を思い出して笑ったら、矢傷が引き吊れて全身に痛みが走った。

そうか、俺は3才にして、あの女を守ってやらなくては、と男としての義に目
覚めたというわけか。。。俺は生まれて初めて涙を感じた。(このややさんを
守ってやらなきゃ)と決意した昔を思い出し、なのに守ることも出来ず、今や
死を迎えるだけの我が身を思い、涙がとめどなく流れ出るのを押さえられなか
った。

しかし、あの女は難しい女だった。あの女は「わたくしの理想の殿方は知盛さ
まただお一人。この世に知盛さまより素敵なお方がいらっしゃるでしょうか?」
と、この俺の目の中を覗き込んでのうのうと言った。確かに、あの女は知盛の
殿を見つけるとうっとりとした目をし、心を奪われていた。俺には絶対見せな
い目つき、表情であった。それに知盛の殿では人間的な大きさ、大人の雰囲気、
男振り、身分の差、どれを取っても俺に勝ち目は無かった。

更に、俺があの女を見掛ける時には決まって近くに男がいた。それが、俺の納
得の行く見事な武士ぶりの男ならばこっちも納得が行ったのだが、ろくな男達
ではなかった。でっぷり太ったヤツ、髭だらけのヤツ、なよなよしたヤツ。外
見はともかくも、とてもあの女を絶対に守り抜く、という強い意志を持った男
達には見えなかった。

見て見ぬ振りも男のたしなみと思えば顔には出さぬようにはしていたが、本心
俺の心の中は嫉妬で一杯であった。それは、あの女が生まれてからずっと、そ
して、それは俺があの女の笑顔を最初に見た時からずっと、俺だけがあの女を
守ってやるのだと決意していたからだ。

男の心は愛するものを守りたいのが本音の気持ち。あの女が可愛いから、俺に
怒っても泣いても何をしても何を言っても、やっぱり可愛いから、あの女に近
寄る男の存在は面白く無かった。

どうして俺を避けていたんだよ、けい子ちゃん。

あの女のことでしくじった事があった。いや、しくじった、とは言いたくない
な。何年前の事だったろう。町の女に「ゆう」という美しいのがいて、仲間達
の間で鞘当てをしていた。俺はアイツらに「いくら姿形が美しうとも、心の中
なんて分かるものか」とケチをつけ、オヤジの小者のクメと喧嘩になった。

「坊は伊賀の平田の娘がええんじゃろう。あの娘は平田の親父に似て、身体が
アヒル、目と目の間が離れとって、顔はまるで蛙ではないか」

血刀下げた俺が我に返った時、クメは虫の息になっていた。

その晩、オヤジが俺を呼び付けて「家の子郎党は家族の一員ではないか。主人
がいたわってやらねばならぬ小者に刀を抜くとは、お前は何という情けないヤ
ツだ。この家からとっとと出て行け」と叫んだ。

俺のような末っ子に生まれては、分けて貰える物も無く、俺が再び都に戻って
来る時までには、あの女はどこぞにでも嫁に行っている事だろう。吹っ切るに
は良い機会であった。遠くから見守ることも良いかも知れぬ。男の気持ちは守
りたいのが本音の気持ちなのだから。

しかし、この戦いに何故負けたのであろう?勝ちはこちらにあった筈だ。潮の
流れか?潮の流れに負けた、ということは平家は遂に神仏にも見放された、と
いうことか?いや、この世に神仏などある筈が無い。あるならば神仏が源氏方
をこそお許しになるわけが無いではないか。戦いの美はこちらにある筈なのだ
から。

屋島で見事に扇の的を射た源氏の若武者を、敵ではあっても舞いを舞って誉め
讃えた平家の老武者を、二の矢で射落としたなど、神仏の前に、いや武士とし
て、いやいや、ただの市人としても、あれより劣る行ないは無いではないか!

こたびの壇の浦の戦さとて同じ事。男と男が誇りと誇りを競い、武士と武士が
矢と矢で、刀と刀で争う戦さを、源氏方は舵取る水夫を先ず射落し、切り殺し
たではないか。義は神仏の前に、はや、滅んだというのか?平家の運命と共に。

今朝彦島を出る時、確かに勝算はこちらにあった。敵の大将範頼は九州にあっ
て手も足も出ない状態であった。鎌倉から遠く離れ過ぎて兵糧に困り、長門国
を本貫地とする知盛さまの敵ではなかった。

地の利だけでなく潮の利も我が軍にあった。それを負けただなど。。。どうや
ってあの女に告げれば良いのだ?あの女の目には一滴の涙さえ決して浮かべさ
せたくないのに。

とは言え、俺はだからといってここで死ぬわけにはゆかぬのだ。どうしても、
どうしても行かねばならぬのだ。俺を生と死のぎりぎりの縁で生かしめ、俺に
早く、早く帰って来て欲しい、と叫ぶ女のもとへ。

死なば魂は千里の道をたちまちに走るとか。いや、俺は生きて、行きたいのだ。
この手であの女を抱き締めたい。あの女を赤子の時、この腕に抱き締めたよう
に。そしてあの女の無邪気な笑顔を今一度見てみたい。

会いたい。会いたいよ、死ぬ前にもう一度会っておきたいよ、け・え・子ちゃ
ん!

もう、死んでしまいそうだ。必ず会いに行く、必ず迎えに行くと約束したのに。
どうして今、死ななきゃいけないのだ?未だ死ぬわけにはいかぬのに。あの女
には、もはや二度と会うことは無い、と固く決意した日もあったが、伊豆の狩
野でも忘れようとは努めたが、あの女の笑顔が浮かんできて、恋しさ、愛しさ
は募るばかりであった。

もし、宗盛の殿を助けようとなどせず、平家の負けが見えて来た時に脱出して
いたなら、こうして思いを残して死ぬことはなかったのであろうか?いや、そ
んなことは俺には出来なかった。家臣として、主人の危機を見捨てることなど
出来なかった。義にかけて。

義?俺にとっての義とは?武士としての義?人としての義?男にとっての義。
。。?俺にとって義とは一体何だったのだろう?これまで切磋琢磨し修行を重
ねてきたこの俺が、俺の力の全てで、俺の命を賭けて守り抜きたかった対象と
は?俺がこれまで戦ってきた日々を支えてきたものとは?

俺、藤原景俊。齢、弱冠。俺の人生の全てを与え、求め、守りたいと願った只
一つの存在は。。。伊賀の平田のけい子。。。きちんと呼ばないと怒られてし
まうな、あきらけい子だ。この世に神仏がおわすなら、いつか必ずあの女に会
わせて欲しい。今度こそ、今度こそあの女の一生を見守ってやりたいから。

君の微笑む所をもう1度見ておきたいよ。笑顔が欲しいよ、けい子ちゃん。

今生でもう二度と会えぬのなら、生まれ変わってでも、会わせて欲しい、あの
女に。何度生まれ変わろうとも、いつか必ず、会わせて欲しい。神仏にご慈悲
があるのなら。

もう、魂が身体から脱け出て行きそうだ。。。



この投稿に対するコメント

コメント:HTMLタグは使えません。改行は反映されます。


お名前:(省略不可)

削除用パスワード:(省略不可8文字以内)

メールアドレス:(省略不可)

URLアドレス:
 ホームページをお持ちの方のみ、そのURLアドレスを記入してください。